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デンマークでポスドク、大学発ベンチャーで研究員をした後、ひょんなことから大学の助教となった一博士号取得者が日々感じたこと、たまにサイエンス(主に化学)についてつづります。


by Y-Iijima_PhD
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暗雲

以前、博士課程での結果がようやく解禁になりそうだということをかきましたが、どうもそこに暗雲が立ち込めてきました。具体的な内容はかけませんが、生物系との共同研究で、こちらが化合物を合成して、向こうが独自に開発したシステムで分析をするというもので非常に画期的な成果を出しました。十分Natureとか狙えそうなレベルです。合成したものも100%オリジナルというわけではないですが、ここまでやったのは初めてで、そもそもこれでいい結果が出せる保障はなかったものですから、合成だけ抜き出しても結構いい論文になりそうなものです。

しかし、化合物の構造は出せないということで自分が卒業後、ボスが大きな学会で成果を発表したときも一部を伏せて発表していました。それで2年がたったわけですが、最近どうも同じ技術を使い始めた研究室があるという話を聞きました。そしてつい先日そこの研究室がその内容を国内誌に発表しているという事実が判明。こちらが伏せていた構造も描かれていて、向こうがオリジナルですとでも言いそうな感じです。推測ですがボスの学会発表を聞いて感づいて向こうもやり始めたというのが時期的にも妥当です。生物系に詳しければ伏せていてもすぐわかりそうなものですから。

最終的な成果自体は共同研究先の技術がなければ到底再現できないですから、そこはゆるぎないものですが、そちらに重点を置いたものだけしか論文にならないと、こちらはただ化合物を提供しただけ、しかもそれは自分たちで考えて作ったものではなく、他のグループの結果を真似たということにされかねません。いい論文が1報でるとしても、自分が1年近く費やした結果がもしそういう評価になったとしたら非常に腹立たしいです。

むかしボスも大ボスが国際学会で発表した内容をその学会に出席していた競合する海外のグループに先に論文として発表されたという経験をしているようですが、それと同じような事態になりそうです。全体の結果としては絶対いいものが書ける点は違うけど、こちらの貢献度が過小評価されてしまえば実質同じです。この世界ではよくあることなんでしょうが、全く誰も思いつきそうもないアイデアでもない限り、結果が出たらすぐ発表しないといけないということです。それは企業がすぐに特許を出さないといけない、新製品はCMをしてシェアを伸ばしていかないと競合他社に負けるというのと同じようなものだと思います。研究室の運営にしてももっとビジネス感覚を持ってやっていかなければ生き残っていけないということだと思います。

ちなみに今回の件に関する研究はもうやっていないし、共同研究先が興味ある活性でないと分析してくれないので今後の研究に大きな支障は出ないと思われます。自分にとっても過去の結果ですから、いつまでもそれにしがみつく気もないですし、これから2,3年で新たな成果を出していくほうが断然重要です。今回の件は成果が出たらすぐにまとめて、論文、発表、場合によってはそれに先立って特許を出すことが非常に重要だといういい教訓になりました。
by Y-Iijima_PhD | 2009-05-24 16:11 | 日常