Full Methyl Jacket?
2008年 03月 19日
Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 2595 –2599から、目に留まったアブストラクトFull Methyl Jacket?について。基本的に書評、レビューの類ではないので内容が面白いかどうかは知りません、というかちゃんと読んでません。ただ関連して思うことを書きます。
内容は経口投与ではbioavailabilityの低いペプチド系の薬物をN-メチル化することによって、bioavailabilityを高めるというもの。bioavailabilityというのは薬剤学において、服用した薬物が全身循環に到達する割合を示したもの。静脈注射では100%、経口投与では消化管からの吸収率、全身に循環するまでに代謝、分解されるので一般的にbioavailabilityは低下します。
インフルエンザの特効薬として始めに開発されたザナミビル(リレンザ)はタミフルとほぼ同じ効果を持っていますが、経口投与でのbioavailabilityが2%程度しかないため、特殊な吸入器で投与されています。その後経口投与で十分な効果を発揮するタミフルが開発されたため完全にシェアを奪われる形となりました。
最近では患者のQOLの向上を図る医療が求められているため、注射や点滴のような侵襲的なものより、経口投与できる薬の開発が求められています。特にbioavailabilityが高く、効果が持続するような薬物だと1日1回の投与で十分効果が持続するなど患者の負担も少ないし、飲み忘れる可能性も低くなります。
今回の論文で取り上げられているペプチドはbioavailabilityが低いものの代表といえるかもしれません。基本的に水にも有機溶媒にも溶けにくいものが多いですし、アミノ酸がつながったものなので体内で酵素により分解されやすいという点もあります。ペプチドの溶けにくさは主にアミド結合同士の水素結合によるものなのでN上の水素をメチル基に換えてやることで物理的性質を改善できるだろうというのがこの論文のコンセプトです。
N-メチル化することで溶解性は上がるでしょうが、コンフォメーションが変わる可能性が高いためそのままの活性を維持できるとは限りません。それにものによっては水素結合が活性に重要だったりするのでいつでも通用する方法ではありませんが、簡単に合成できるものであれば、ちょっと手を加えるだけで性質を一気に変えることができるという点ではいいかもしれません。
最近はドラッグデリバリーシステムといって薬物を特定の場所に運ぶ方法がよく研究されていますが、今回の論文に載っている方法も活性はよかったけど物性がいまいちでボツになった薬物の敗者復活に使えるんじゃないかと思います。合成化学者としては全く新しい薬の開発に目が行きがちですが、製薬企業としては新たに0からスタートするよりははるかにコストを削減できるでしょうし、ボツになった薬のコストも回収できるので一石二鳥かもしれません。
ただ一つ、いくら重要な技術だからといってこの分野だけの専門家になるのはよくないと思います。基本的にこの分野にかかわる人は生物か化学どちらかのしっかりしたバックグラウンドを持つべきでしょう。さもないとどっちも中途半端で、何かを調べたいけど思うようなものを作れない、うまい分析方法を開発できないといったことになる可能性があります。これは近年ブームになっているケミカルバイオロジーという分野にもいえることです。異なる分野の融合領域ではどれか1つの分野のスペシャリストでありかつ、異なる分野にも興味を持ち、内容を理解できるというのが求められる資質だと思います。
で、何でこの論文を取り上げたかというとペプチドの全てのアミド結合をN-メチル化をすることをFull Methyl Jacketと見出しを出して、実際にそれがFull Metal Jacketの弾丸のように貫通性を高めているのでうまいこというなと思ったから、ただそんな単純な理由です。
内容は経口投与ではbioavailabilityの低いペプチド系の薬物をN-メチル化することによって、bioavailabilityを高めるというもの。bioavailabilityというのは薬剤学において、服用した薬物が全身循環に到達する割合を示したもの。静脈注射では100%、経口投与では消化管からの吸収率、全身に循環するまでに代謝、分解されるので一般的にbioavailabilityは低下します。
インフルエンザの特効薬として始めに開発されたザナミビル(リレンザ)はタミフルとほぼ同じ効果を持っていますが、経口投与でのbioavailabilityが2%程度しかないため、特殊な吸入器で投与されています。その後経口投与で十分な効果を発揮するタミフルが開発されたため完全にシェアを奪われる形となりました。
最近では患者のQOLの向上を図る医療が求められているため、注射や点滴のような侵襲的なものより、経口投与できる薬の開発が求められています。特にbioavailabilityが高く、効果が持続するような薬物だと1日1回の投与で十分効果が持続するなど患者の負担も少ないし、飲み忘れる可能性も低くなります。
今回の論文で取り上げられているペプチドはbioavailabilityが低いものの代表といえるかもしれません。基本的に水にも有機溶媒にも溶けにくいものが多いですし、アミノ酸がつながったものなので体内で酵素により分解されやすいという点もあります。ペプチドの溶けにくさは主にアミド結合同士の水素結合によるものなのでN上の水素をメチル基に換えてやることで物理的性質を改善できるだろうというのがこの論文のコンセプトです。
N-メチル化することで溶解性は上がるでしょうが、コンフォメーションが変わる可能性が高いためそのままの活性を維持できるとは限りません。それにものによっては水素結合が活性に重要だったりするのでいつでも通用する方法ではありませんが、簡単に合成できるものであれば、ちょっと手を加えるだけで性質を一気に変えることができるという点ではいいかもしれません。
最近はドラッグデリバリーシステムといって薬物を特定の場所に運ぶ方法がよく研究されていますが、今回の論文に載っている方法も活性はよかったけど物性がいまいちでボツになった薬物の敗者復活に使えるんじゃないかと思います。合成化学者としては全く新しい薬の開発に目が行きがちですが、製薬企業としては新たに0からスタートするよりははるかにコストを削減できるでしょうし、ボツになった薬のコストも回収できるので一石二鳥かもしれません。
ただ一つ、いくら重要な技術だからといってこの分野だけの専門家になるのはよくないと思います。基本的にこの分野にかかわる人は生物か化学どちらかのしっかりしたバックグラウンドを持つべきでしょう。さもないとどっちも中途半端で、何かを調べたいけど思うようなものを作れない、うまい分析方法を開発できないといったことになる可能性があります。これは近年ブームになっているケミカルバイオロジーという分野にもいえることです。異なる分野の融合領域ではどれか1つの分野のスペシャリストでありかつ、異なる分野にも興味を持ち、内容を理解できるというのが求められる資質だと思います。
で、何でこの論文を取り上げたかというとペプチドの全てのアミド結合をN-メチル化をすることをFull Methyl Jacketと見出しを出して、実際にそれがFull Metal Jacketの弾丸のように貫通性を高めているのでうまいこというなと思ったから、ただそんな単純な理由です。
by Y-Iijima_PhD
| 2008-03-19 04:29
| 化学