デンマークでポスドク、大学発ベンチャーで研究員をした後、ひょんなことから大学の助教となった一博士号取得者が日々感じたこと、たまにサイエンス(主に化学)についてつづります。


by Y-Iijima_PhD
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

蜘蛛の糸

「博士募集」に応募殺到 秋田県教委が教員採用

MSNニュースより、リンクがいつまで続くかわからないので引用しながら思うところを書いていきます。

全国で初めて秋田県教委が実施した博士号取得者対象の特別選考で合格した理工系大学研究員6人が1日、県立高校教員に採用される。選考は予想を大きく上回る10倍の難関だった。地方の教員試験への博士殺到には、「末は博士か大臣か」と言われた時代からは想像もつかない深刻な理由があった。(宮原啓彰)


これは現在ポスドク問題で苦しむ人にとっては蜘蛛の糸のようなものだったと思います。自分も募集要項を見てみましたが(応募する気は皆無ですが)、けっして待遇はいいとはいえません。民間企業に入ったほうがはるかにいいはずです。それでも応募が殺到するのは大学、国研で研究者をやっていても契約は期限付き、上のポジションが得られる可能性も低く、給料も安い。かといって民間に就職しようにも企業は博士を採らない。専門にこだわるからだめなんだといわれても新卒優遇の社会状況では職歴のない人間が採用される見込みはないという八方ふさがりの状況からなんとしてでも抜け出したいという人が少なくない数でいるということでしょう。

応募があるのかさえ不安だった秋田県教委だが、結果的には反響の大きさに驚かされた。意外だったのは面接で「大学にいても生活できない」と志望動機を話す人がいたことだ。


もちろん博士の就職状況は分野によって全く違ってきます。文系はもっとも厳しく、工学系はそれほどでもありません。これは研究内容が産業にどれほど関係しているかによります。自分の専門である有機合成化学は産業にほぼ直結しているといえるます。もちろん大学でやっている研究は商業目的ではないですが、実験の技術、反応の知識、分析技術はほとんど同じです。基本的には目的や考え方、作る量が違うぐらいで、それらは会社に入ってから学んでも遅くはないと思います。ということで会社によって博士はあまり好きじゃない、採ったことがないからわからないというのはありますが、就職先がないとか専門と全く関係ない仕事をしないといけないというようになる可能性は最も低い分野かもしれません。

しかし、「大学にいても生活できない」ということに関しては同じような状況に近づきつつあるのではないかと思います。アカデミックにこだわらなくても専門を生かせる分野ではありますがやはり少なからずポストが空くのを待っているポスドクはいますし、アカデミックポストの倍率は高いです。高倍率を勝ち抜いて得たポストですが、最近では3年程度の任期制。その間にいい結果を出して、かつ次のポジションの空きを見つけ、また高倍率を勝ち抜かなければ再びポスドクに後戻り。場合によっては研究員としてお金を払って大学に籍を確保して次のチャンスを待つなんてこともありえます。その上給料も安い。実際に給料がどの程度なのかはっきりとは知りませんが、出身研究室の助教の生活状況、給与明細を見たことがある人の話からして安いといえるレベルでしょう。準教授ですら高くはないですから(こちらはちょっと見たことがあります)。それにしても大学の助教の給料は実際にいくらもらえるかは実際に働き始めるまでわからないんですかね。欧米はもちろん企業、アカデミア問わず日本でも企業は内定の前に最初の給料がいくらかわかると思うんですけど、それを提示しないで採用しているような気がするんですがいいんですかね。超買い手市場なので応募する方はどうしようもないですが。

昔は教授に気に入られて助手として大学に残れればあとは大体エスカレーター式に出世していける、はっきり言ってぬるい職業だったと思います。そういう点では官僚に似ているかもしれません。公募制、任期制になって悪しき因習がなくなっていくのはいいですが、若い世代ばかりがとばっちりを受けているような気がします。

文科省は「研究職にこだわらず、外の社会にも視野を」というが、民間企業では「学部卒入社の同年代社員に比べ、実務経験が乏しく、専門領域が細分化し企業ニーズと一致しないなど博士の採用を避ける傾向にある」と沢教授。


これがポスドク問題のみならずニート、フリーター問題も深刻にしているのではないかと思います。崩れてきているとはいえ終身雇用と年功序列がこの根本的な原因ではないかと思います。そして付和雷同する協調性、空気を読むことを重視する企業だと、研究というのは基本的にその逆なのでそれをやってきた博士は相性が悪いと思います。

ポスドク問題は根が深くおそらく解決されることはないでしょう。博士進学者も減ってきているので今後は大学教員ポストの需要と博士卒の供給が均衡を取れるところまでいって落ち着くでしょう。あふれた人は社会の闇に葬り去られることになると思います。博士号取得のためには多額の税金が投入されていますが、新たに税金を投入して救済するより損きりしたほうが安上がりでしょうから。そのかわり日本のアカデミアは崩壊し、人材流出にもさらなる拍車がかかることでしょう。まあ、海外で暮らしていければあまり関係ないんでいいんですけど。
[PR]
by Y-Iijima_PhD | 2008-03-31 07:13 | ポスドク問題