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デンマークでポスドク、大学発ベンチャーで研究員をした後、ひょんなことから大学の助教となった一博士号取得者が日々感じたこと、たまにサイエンス(主に化学)についてつづります。


by Y-Iijima_PhD
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急がば回れ

最近ようやく実験がうまく行きそうな雰囲気になってきました。暖かくなってきたし、日も伸びてきたこともありやる気は急上昇中。というか先週あたりはやる気ほぼ0で惰性でやってた気がします。それもこれも実験がうまく行かなかったからに違いありません。

今作っているものは構造は出せませんが、ベンゼン環にアミノ基(NH2)とアジド基(N3)を持つ化合物です。もっともこれはもっと大きな分子のビルディングブロックの一つですが、一番の鍵となるものです。それで今までは前任者が使っていた2つアミノ基を持つ化合物から一つをアジド基に変換すれば良いだろうということでやっていました。そのために爆発性のあるTfN3を作って反応させましたがノーリアクション。よくよくデータを見てみると前任者の残したサンプルがラベルに書いてある化合物と違うものであることがわかりました。貼り間違えたのか保存中に壊れたのか分かりませんが。それでもラベルに書いてある本来必要な原料には直ぐに変換できそうでした。しかし、この反応も簡単なはずなのに思いのほかうまく行かない。それでも少しだけ欲しいものができたので再度TfN3を作って反応させましたがやはりノーリアクション。

このままでは埒が明かないのでルート変更。ボスがヨウ素からカップリング反応でアジド基に変えられるはずだというので、文献を見つけて、合成ルートを考えました。それでアジド基の導入はうまく行くようになったのですが、今度は原料にあるアミノ基せいでほかの変換がうまく行きません。

いくらやっても遅々として進まないのでやる気も急降下。ボスが3週間カリブ海でバカンスしている間も「あーうまくいかねー」と言いながらやっていました。自分も1週間Croatiaで気分転換してきましたが、帰ってきてもやっぱりうまく行かない。それで先週火曜の報告会でうまく行きませんというとこういう化合物でも良いとより簡単(そうに見えるけど、実際にルートを考えてみないとできるかどうかは分からない)な妥協案を提示してきました。

しかし、ここでその案を飲んでいたら日本人合成化学者の名が廃るということで2日間程じっくり合成案を練ってみました。自分のポリシーとして原料はなるべく安いもの、反応も確実かつ試薬も安い物を選ぶようにしていますが、これらを考慮していろいろ考えた結果、非常に実現可能性の高いルートを思いつきました。今回はもうボスのいう案も、前任者の化合物も使わない完全オリジナルです。

今までの結果から言ってアミノ基が邪魔ばかりしているので、いっそのことアミノ基はおろか窒素すら無くしてしまうというコロンブスの卵的発想で原料を選び、確実な反応として有機化学者なら誰もが知っている教科書に載っているような基本反応のオンパレードで考えついたのがこれですと出せないのが悔しいぐらい我ながらいいルートを思いついたと思います。ステップ数はちょっと多めですがニトロ化、還元、Sandmeyerでアジド基を入れ、アミノ基はCurtius転位と基本中の基本反応を多用します。配向性もバッチリ決まるはずだし、どの段階もほかの官能基には影響を与えない無理のないルートのはずです。院試の問題に出しても良いんじゃないかという気がするぐらいです。まあ、急がば回れといった感じです。

もちろん原料も試薬も格安のものばかり。欲しい化合物を1g作るのに必要な原料、試薬の合計はひょっとしたら1万円切れるんじゃないかという程お安くできそうな気がします(原料は2000円/kg)。まあ、コストはあまり問題ではないんですが、安い試薬を使う教科書反応の方がデータの蓄積も多く、確実なので、その条件が適用できれば今でも試してみる価値は十分にあります。

しかし、こういう教科書反応、実はあんまりやったことがないんです。自分に限らず多くの人がそうだと思います。大抵は条件が厳しいので複雑な化合物の合成には向いていないことが多いですから。ニトロ化なんて学生実験以来です。今回の原料はそれぐらい単純だということです。でも、やっぱり濃硫酸溶媒というのは後始末が面倒です。それに硝酸が加わるとさらに。なので今回は硝酸の代わりに硝酸カリウムを使ってみました。これだと酸の量を減らせるし、硝酸の蒸気も出ないし、当量もコントロールしやすくて結構いいです。

ただよく調べてみるとこのニトロ化した化合物は売っていたのでこの反応はもうしないでしょうな。その後の反応では一時期日本でブームになった?アジ化ナトリウムを使います。まあしょっちゅう使ってますが。Curtius転位でも使うかな。この反応も前の研究室で誰しもが知っているけど実際にやっている人はみたことがないというものの一つです。

酸化反応もありますが、こちらはSwern酸化の予定。この反応はちょっと手間がかかるのでB4、M1あたりだとこれができるようになったら一人前と見られるような反応ですが、信頼性が高いし、試薬も安く、大量でも大丈夫なので臭いにさえ慣れれば使い勝手のいい反応です。

火曜の報告会までにできるところまでやってこのルートでいくというコンセンサスを得たいと思います。ということで今日もちょっと働いてきました。明日も実験なんかしてられないというぐらい天気がいいか、外に出たくないぐらい天気が悪くない限りは少し働くかもしれません。うまくいけば一週間ぐらいでできそうなので、Pragueに行く前に本来のターゲットまで進めるように頑張ってみます。
by Y-Iijima_PhD | 2008-04-06 06:46 | 化学